バンドマンイトーさんの見た世界
戯言

女性の生理事情について真剣に考えてみた男

女性の生理事情について真剣に考えてみた男

 

「あなたは女の気持ちをこれっぽっちも考えてない!」

唐突に声が聞こえた。

声のほうを振り向いてみると、今流行のドラマがテレビに映し出されていた。

画面には二人の男女がきらめく都会の中に映っている。

恐らくこの男女は友達以上の親しい間柄なのだろう。

声の主である女性は涙を流しながら男性に訴えていた。

男性はそれに明確に答えることができず、ただうつ向いていた。

 

劇中でのセリフのはずが、僕の頭に妙にこびりつく。

というのも、僕自身全くと言っていいほど女性の気持ちがわからないのだ。

女性の気持ちではなく、人の気持ちならばわかる。これをしたら喜ぶだろう。これをしたら嫌だろう。

そういった一般的な常識は持ち合わせているつもりなので、人の気持ちを考えて行動あるいは発言をするということはある程度の範囲内で行っているつもりだ。

しかし女性の気持ちというと話は別だ。

齢30を過ぎた今でも理解できないことが多々ある。

この前もコンビニで買い物をする際に女性店員から、「こちら、温めますか?」と聞かれたのをどう勘違いしたのか「こちらで食べますか?」と聞かれたと思い、「いえ、テイクアウトで」とか的はずれな回答をしてしまった。しかも持ち帰りではなくテイクアウトっていうあたりかなり自分を美化して発言している。

恐らく女性店員から言わせると「私の訴えることをこれっぽっちも理解していない」と思われたことだろう。

コンビニで買い物をしているのにテイクアウトが存在するなんてとても思えない。イートインスペースがあるならばその質問を受ける可能性もあるのだろう。しかしながらこのコンビニにはそんなスペースはない。そのためそもそも「こちらで食べますか?」の質問が放たれる謂れはないのだ。

 

にも関わらず僕はあさっての方向にボールを打ち返してしまった。

あのときの女性店員の目はドラマで見た女優の目と同じ視線だったに違いない。

それほどまでに女性の心は複雑であり、繊細なのだ。ガサツな男には全く理解ができないのだ。

 

話は少しそれるが、僕は高校生の時にもブログをやっていた。

当時は、ブログサービスがちらほらと出始めてきた時代であり、ブログをやっている人は今ほど多くはなかったと記憶している。

そんな時に僕もブログをやり始めた。

今はサービス自体が終了してしまったがために、その当時書きなぐった稚拙な文章はネット上に残っていない。

しかし先日パソコンの中を整理していたら、当時書いた記事がいくつか保存されているのを発見した。

高校生という多感な時期を表現した文章を見返してみる。

「彼女が欲しい」とか「女の子と遊びたい」とか「ディズニーデートするなら制服。セーラー服ならなおよし。靴下は紺のハイソックスで」とかそんな文章が目に飛び込んできた。

恐らく当時の僕の頭の中は女の子のことでいっぱいだったのだろう。

彼女がいないことはもちろんなのだが、三年間の高校生活の中でクラスメイトの女子と会話をした記憶もほとんどない。

かろうじて高校3年間の中で女子と会話をしたことと言えば、

「そこのマッキー取って、太いの」

「あ、うん、太いのね、太いマッキーね、太いの」

といった事務的な会話ぐらいだ。脳内がピンク一色であったがために、「太い」という単語に過敏に反応してしまった記憶があり、女子との会話はこのとき一回ぐらいだった。

そんな非リア充な僕であったがために、性のはけ口をどこにも向けられず、結果わけのわからない妄想をするしかなくなり、それが体現化されたのがネット上に殴り書きしたブログ記事だった。

 

内容としてはただただ気持ち悪いのだが、当時の僕は現在の僕よりもはるかに女性のことを斜め上の方向に考えていたと思う。

ある程度世の中の物事を知り、しかしながら未体験なものも数多く存在する、そんな子供と大人のハザマで過ごす極めて不安定な存在である高校生だからこそ見えてくるものがあったのだろう。

そんな当時の僕を表現したもどかしい文章が僕のPCには数多く保存されていた。

「懐かしいな」

まるで部屋の掃除をし始めたら、二十年前のジャンプを発見してしまい思わず腰を据えて読んでしまうといった様に、ノスタルジックに浸りながら自分の記事を読み進めていくと、とあるテーマについて書いている記事が目に飛び込んできた。

その時のテーマは女性特有の現象である”生理”についてだった。

世の女性を閉経するまで苦しませ続ける魔の現象。

人によってその症状や重さは様々だが、ほとんどの女性が生理を「辛い現象」と感じているであろう。

しかしながらこの現象は女性にだけ起こるわけで、男には一切発生しない。

当時の僕からすると、女性というだけで未知の存在であるにも関わらず、その女性にだけ発生する現象がとても神秘的なものに見えたのだろう。その神秘的な存在を舐めるように調べたくなった結果、生理をテーマにしたのだ。

 

文章を読み進めていくとこう記されていた。

「女性にだけ訪れる生理を理解することができれば、女性の気持ちがわかるかもしれない」

凄く単純な発想だが、女子にもてたい僕としては藁にも縋る想いでこのテーマに取り掛かるに至ったのだと思う。

生理について、なにより女性の気持ちについて自分なりに調べた結果が鮮明に記されていた。

図書館などに行き、女性の生理について調べている高校生は非常に気持ち悪いことだろう。恐らく僕もその情景を考え、自分自身がその高校生になり得ることを想像していたらその羞恥心に耐えられず、生理について調べるなんて変態じみたことはしなかったであろう。

しかしながらその当時にはすでにインターネットがある程度ではあるが発達していた。

YOUTUBEなどはなかった時代だが、そこそこの調べ物はできるほどには世の人々の生活に浸透していたと思う。

結果的に僕は羞恥心を味わうことなく、ブレーキを全く踏むこともなく、家の中で暗がりの中シコシコと生理について調べ、「月経前症候群(PMS)」なんてことについて綴っていってしまったのだ。これはこれで気持ち悪いのだがそんな自分自身を俯瞰する想像力は持ち合わせていなかった。

きもちわるいなこいつ。

思わず読み勧めた僕が思ってしまったが、この記事を書いたのも僕自身なのだ。この変態じみた野郎の稚拙な文章によって多少なりとも気分を害したが、こらえながら読み進めていったところ文末にはこう記されていた。

「なので、もし女性特有の生理に似た現象が、男にだけ起きたら、そんな世界を想像したら、世の男性は女性にもっと優しくできるのではないか」

そこで文章は終わっていた。

改めて考えるとすごく深い文章だと思う。ここまでただただ気持ち悪い駄文を見せつけられた僕はこの一文でガラリと印象が変わった。高校生の僕はなんて聡明で甘美で変態的な文章を書くのだろう。

高校生の自分の文章に思わず唸ってしまった。

女性特有の現象を理解することが女性の気持ちを理解する第一歩なのだと高校生の僕は提言しているのだ。素晴らしい。

当時の僕は今の僕以上に女性に対して紳士的であり、それでいて実直だったのだ。素晴らしい。

そんな時代が僕にもあったのだ。本当に素晴らしい。

もしかするとあの時の気持ちを今一度考えてみれば、先ほど目に映ったドラマのようなセリフを女性から言われないような素敵な男になれるのではないか。

女性の気持ちがわかる紳士的な男として今更ながらモテモテになるのではなかろうか。

 

当時の僕の幼い脳みそではなく、酸いも甘いも経験した今の僕の脳みそがこの題材で改めて記事を書いてみたら、もしかしたらもっといい結論に到達するのではないだろうか。

そう思い立ち”もし男にだけ生理が起きたら”という世界を今一度想像してみることとした。

 

――――――――――――

「射精の最果てで君は何を想ふのか」

~もし月経が男にだけ存在する世界なら~

 

寝覚めの悪い朝だった。

頭がぼーっとする。少し動くと自分の股間が非常に気持ち悪いことに気づく。

そうなのだ。僕は昨夜から”精理(セイリ)”がはじまってしまった。

前回がちょうど1か月ほど前だったし、昨日から股間と睾丸がむずむずすると思ったら、案の定精理がはじまってしまった。

まだ初日だから射精頻度は少ない。昨夜も、パンツの汚れ具合を見ると一発で済んだようだ。しかしながら、時間が進むにつれ回数も多くなることを考えると憂鬱で仕方ない。

射精のせいで深い眠りには入らなかったようで、頭がぼーっとしてしまう。

気怠いが学校を休むわけにも行かないのでしっかりと精理グッズをポーチに無造作にいれ、身支度をし、学校を目指した。

 

学校を目指す途中で、タケシと一緒になった。

「よぉ」

「おはよう」

タケシとは中学2年に進級したタイミングで初めて同じクラスになった。

中学生になったと同時に親の都合で上京してきたタケシ。この町で暮らすことになってまだ1年しか経っていないというのにあっという間にクラスの兄貴分となった。違うクラスの僕ですら評判を耳にするほどに影響力の大きいやつだ。

進級してクラスが替わってもその立ち位置は変わらなかった。友達が少ない僕にも気さくに話してくれる貴重な存在だ。

「おー、なんか元気がないな」

出会って早々、精理が始まって朝から鬱々としていた僕の気分をすぐさま見抜いてきた。

こういうところが兄貴分になる所以なのだろう。

「いやー、大したことはないけど……」

「そうか。まぁそれならいいけど。」

「……」

 

こちらの気分を気にしてか、それ以上タケシはこの話題を追及してこなかった。

そういえば、タケシはもう精通を迎えているのだろうか。

タケシはいつも元気だし、精理ポーチをもっているところをみたことがない。早ければ小学4年生ぐらいで精通を迎え、そこからは閉経を迎えるまで一か月に一回のペースで、長ければ1週間ほどの精理期間が訪れるはずなのに、タケシと一緒のクラスになって3か月たつがタケシが精理になったような素振りを見たことがない。

周りに心配させないように気を使っているのかもしれない。そういうことが自然とできるようなやつだ。

「今日はプールかー……かったるいなー……」

沈黙を破ったのはタケシだった。

そういえば今日はプールだった。精理になったから見学しか選択肢がないのであまり気にしていなかった。プールの授業は好きだから少し損した気分になってしまった。

「僕、今日のプールは……うっ!!」

射精してしまった。体が思わず跳ねてしまう。

なんの前触れもなく射精してしまう。これが精理期間中にあと何十回も続くことを考えると死にたくなる。

「はぁ……はぁ……」

射精すると、100メートルを全速力で走った時と同じぐらいの息切れが起きる。動悸も速まるので必然、呼吸が早くなってしまう。

「あぁ……大丈夫か?」

タケシが察してくれたようだ。

「はぁ……大丈夫。精理だから今日のプールは見学だなー……」

そう。僕ら男の精理期間中にはなんの前触れもなく唐突に射精してしまうのだ。しかも1回だけではなく期間中であれば何回も射精してしまう。これが本当につらいのだ。

「おー、よかった。実は俺も終わりかけだけどまだ射精しちゃうから今日は見学する予定だったんだ、一緒に見学しようぜ」

「タケシは精通してたんだ」

「ん?この歳になったらほとんどみんな精通してるんじゃないか」

タケシに精通が訪れていないかもという疑問があったからか、つい口が滑ってしまった。

「いや、まぁ確かにそうだけど、まだ精通を迎えていない人もいるんじゃない?」

僕は話題をそらした。

「あー、そういえば川島がまだだなー」

思わぬところでいらぬ情報を仕入れてしまった。川島は同じクラスメートの男子だった。華奢な体つきをしていて、中性的な顔立ちをしている。本人はそれをコンプレックスに思っていそうだが、確かに精通していないと言われても納得してしまう。

「川島はまだなんだな。うらやましいなー」

「でも本人はそれで悩んでいるみたいだから、俺が言ってたことは内緒な」

そういってタケシははにかんで見せた。岩みたいな外見をしている男にもかかわらず、口は綿のように軽いやつだ。

まだ精通していないということは、男の体になっていないということだ。まわりの人に子供扱いされることもあったのかもしれない。そもそもほとんどの人が中学1年ごろには精通を済ませている。その中で自分だけ精通していないというのは自分の体に疑問を持つようになるのかもしれない。そう考えると川島に少し同情した。

「まぁあいつもそのうち……うっ!!」

射精したようだ。

タケシも立派に精通していたのだ。

「はぁ……はぁ……あー、やっぱりまだ続いてるなー……」

彼は額に汗を浮かべながらにやけていた。

 

・・・

 

学校に着いた僕らはつらいながらも授業を受け、ようやく4限目の国語の授業の終わりに差しかかろうとしていた。

射精は授業中にも容赦なく襲い掛かってくる。朝起きてから現時点で僕はすでに7回は達していた。

当然のことながら射精の後の虚無感も襲い掛かってくる。さらに射精のたびに血流が早くなるため頭痛もするし、射精のし過ぎで睾丸や尿道も痛くなってきた。精理用品をつけているといっても、やはりドロドロした精液が股間についていると気持ち悪く、今すぐにでも精理用品を変えたくなるが、授業中に精理ポーチを持っていくのも恥ずかしいので早く授業が終わることを祈るしかないのだ。

しかし精理初日の僕なんてまだいいほうであった。

教室の端に座る高柴を見ると、机にうなだれていた。彼は今日が2日目らしく、学校に来てからすでに30回以上は達しているようだった。

なんとはなしに高柴に視線を向けると、机に突っ伏しながらビクッと身体が震えていた。どうやら射精したようだ。授業中ともなると声も出せないので本当に辛そうだ。そんな彼の心中もわからずに先生が非情な言葉を投げかけた。

「おーい、高柴。机に突っ伏してるんなら次の章から音読してくれー」

高柴は気怠そうに先生を見た。少し睨んでいたかもしれない。しかし女性の先生であるため男子の精理事情なんてお構いなしに指名してくる。

高柴は辛いにもかかわらず凛と立ち上がり音読を始めた。

「うちへ帰って案外に思ったのは、父の元気がこの前見た時と大して変わっていないことであった」

彼は毅然とした態度で教科書を読み始めた。つらい状況でもそれを外に見せない姿勢に僕は感服した。

「ああ、帰ったかい。そうか、それでも卒業ができて……っ!!」

一瞬体がびくつき、音読がとまった。どうやら音読中に射精してしまったようだ。

「どうしたー?」

先生が何もわからずに高柴を問いただす。

「はぁ……それでも卒業ができてまあ結構だった」

一呼吸おいて高柴はつづきを読みだした。彼は本当にこころが強かった。夏目漱石先生もびっくりするほどのこころの強さだろう。

「ちょっとお待ち、今顔を洗って……っ!!」

2回目の射精だ。いったい彼の下着の中はいまどのような状態になっているのだろう。想像を絶する状況に思わず目を背けたくなった。

「……」

「高柴、大丈夫かー?具合悪いなら保健室行ってきてもいいぞ」

先生がようやく異変に気づいてくれた。

「すみません。ちょっと辛いので保健室行ってきます」

そういって高柴はこっそりカバンから精理ポーチを手で隠しながら持ち教室をでようとした。瞬間、彼はあろうことか精理ポーチを落としてしまった。ただでさえ授業中に席を立つという目立つ行動をしているのだ。教室中の目が高柴に向いている中で精理ポーチを落としてしまったのだ。

高柴の精理ポーチはドラゴンの絵柄がついていた。あのポーチは確か小学生の時に家庭科の授業で作ったポーチだったと思う。ポーチを作る際にどの絵柄のポーチを買うかは各々が好きに決めることができた。当時人気のキャラクターであったり、簡素な柄であったり……カタログに載っている手縫いポーチセットの中から好きな絵柄を選び、それをもとにポーチを手縫いで作っていくのだ。

そしてかっこいいからという理由で当時のクラスの男子連中がこぞってドラゴンの絵柄のポーチを選んでいた記憶がある。なぜだか僕はドラゴンは選ばずに猫の絵柄がついているポーチにしたが、あとでドラゴンにすればよかったと死ぬほど後悔した。

高柴のポーチにはその時の絵柄が描かれていた。今見てもかっこいいドラゴンであり、あの当時感じた後悔が今再び僕を襲いそうになるが、高柴の恥ずかしそうな赤らめた顔を見て我に返った。女子も含めたクラス中の人に精理ポーチを見られてしまったのだ。多感な中学生にとってこれほど恥ずかしいことはない。ポーチを拾い足早に教室から出ていく高柴の眼には少し涙がたまっていたように感じた。

結局高柴は国語の時間が終わるまで教室には戻ってこなかった。

 

4限目が終了し、ようやく給食の時間になった。

しかしながらあまり食欲がなく、射精の疲労感でとにかく眠たい。今はご飯よりも布団が欲しかった。

「高柴、おかえりー大丈夫か?」

保健室から戻ってきた高柴にタケシが話しかけていた。

「いやー、あまり大丈夫……うっ……!」

会話中にも関わらず射精してしまったようだ。

「はぁはぁ……あまり大丈夫じゃないかな……」

「まぁ見てわかるわ、お前顔も真っ青だしな」

改めて高柴を見ると確かに青白かった。2日目にもなると確かに射精回数も増えるし、それに伴って頭痛や息切れなどもひどくなる。しかしながら結局それには個人差がある。2日目だろうがあまり射精しない人もいれば何度も射精し、それに伴い体調も悪くなる人もいるのだ。高柴はどうやら後者のようだった。

「もう帰ったほうがいいんじゃないのか?」

タケシが高柴を気遣いながら提案した。

「そのつもりだよ。カバンを取りに……うっ!!!」

特大の絶頂が襲いかかってきたようだ。かなり大きな射精だったらしく、足が震えていて今にも膝から崩れ落ちそうだった。

「はぁはぁ……カバンを取りに……来ただけだから……あー、精理休日とかあればいいのになー……」

愚痴交じりに呟きながら高柴は震える手で学生カバンを持った。

「じゃあね。また明日」

「おう、またなー」

そういって高柴は早退した。

給食を取った僕は自分の席に戻った。中学では同じクラスの連中がいくつかの班にわかれる。授業や行事などではその班ごとに行動することがあるのだが、給食の時間も班分けされた者同士でご飯を食べることになる。

僕はタケシと川島、ほかに女子3人が同じ班であった。

「高柴君帰っちゃったの?」

「そうだな」

女子の一人に聞かれてタケシが答えた。

「あれ、精理で帰ったんでしょ?さっきポーチ落としてたし」

お調子者の女子が続けざまに質問してきた。

「おまえ、デリカシーのない質問するなよ、最低だな」

タケシが注意した。確かに精理ポーチを落としたのは高柴のミスだが、それを掘り返してまで性のことをネタに異性に話題を振ってくるなんてほんとにサイテーなやつだった。

「ほんと、お前は小学生の時から……うっ!」

タケシは説教をしようとしたら射精してしまったようだ。

「小学生の時から、何?」

言葉に詰まっているタケシに向かってお調子者の女子がにやけながら聞き返した。

「いやまぁ……もういいわ」

そういってタケシはもくもくと給食を食べ始めた。

始まりの会話が少しギクシャクする話題だったからか、その後はそれぞれ同性同士で会話をしながら食した。

「ごっそさーん」

「じゃあ私ら、バスケでもしに行くねー」

そういって女子たちは給食を食べ終わるや否や残った昼休憩の時間を楽しむために教室から出ていった。

「俺らはどうしようかな」

タケシが僕に聞いてきた。

「いやー、体調そんなに良くないし教室でじっとしとくよ」

「そうだなー、俺もそうするかな」

タケシと僕は教室に残ることにした。

「二人が残るなら俺も残ろうかな」

どうやら川島も残るようだった。

「あのさ、精理ってどんな感じなの?」

川島が突然話題を振ってきた。そういえば川島はまだ精通していないことを通学中にタケシから聞いたな。

そんなことをボケーっと考えていたらタケシが答えた。

「んー、まぁなんかさ射精の瞬間は気持ちいいんだよ。それこそ身体が少しビクつくし、言葉が詰まるぐらい。下手したら少し声もでちまうな」

そういってタケシは射精する感覚を説明しだした。

「へぇー。その話だけ聞くとすごくいいもののように聞こえるんだけどなー」

確かに射精した瞬間の感覚だけを切り取るととてもよいものに聞こえる。僕も精通する前はなんとなく射精する感覚を早く味わってみたいと思っていた。しかし実際精理がはじまるとそんなこともいってられなくなる。

「俺さ、まだ精通してないんだよね」

唐突に川島がカミングアウトした。

「あ、そうだったんだ」

僕は川島が精通していないことを今知ったかのようにふるまった。

「うん。だからどんな感じか聞いときたいなと思って」

「そうだなー……個人差もあるから一概には言えないけど……」

そう言ってタケシは川島の相談に乗っていった。さすがクラスの兄貴分だ。

「今言ったように射精した瞬間は確かに気持ちいいんだよ。でも射精するにはそれなりに体力を使うんだ。出したものをまた体内で作らないといけないしね」

僕はうんうんと頭を縦に振った。

「そんな射精が日に何十回も続くんだ。血流も早くなるから必然的に頭も痛くなるし、当然ながら尿道や金玉も痛くなるんだよなー。しかも射精した後ってすごい虚脱感に襲われるんだ。頭痛もひどいし虚脱感もひどい。だから精理のときはほんとになにもする気が起きないなー。あとなぜか腰回りも痛くなる」

「腰も痛くなるんだ」

「あーそういえば僕も腰痛くなるなー」

「腰というか、股間まわりが全般的に痛くなるよな」

「へぇー」

僕らは川島に懇切丁寧に説明していった。

「あ、あとめっちゃお腹が空く」

「あー、わかるわかる僕なんて精理中の時は常にスニッカーズ持ち歩いてるよ」

僕は精理ポーチから小袋に入ったスニッカーズを取り出した。

「お前はスニッカーズなんだ。俺はポッキー派だなー」

タケシがこたえた。

「そうなんだねー。なんで男だけこんなめんどうくさいのかなー」

川島が男の運命に悲観しだした。確かに僕もそう思う。なぜ男にだけこんなことが毎月のように訪れるのだろう。しかも男にしか訪れないから女の理解を得ることができない。単純に気持ちいい現象でしょ、その程度の知識しかもっていない女が多いのだ。

「なんでだろうなー。なんかあれだっけ、睾丸の中の掃除のために起きるんじゃなかったっけ」

「そうそう。いい精子を作るために古い精子を吐き出すとかなんとか……」

「あー、小学生の時に習ったな」

「なっ。男子と女子に分けられて男子だけそんな授業を受けたよな」

そういえばそんなこともあったな。もしかすると、そもそも男子と女子をわけてそんな授業をするから理解を得られないのではないだろうか。みんな一緒の場所で一緒に精理のメカニズムの授業を受けていたら精理に理解のある女子も存在するようになるのではないだろうか。

「わけなきゃいいのにな」

川島が僕と同じことを思ったらしい。

「まぁしょうがないよ。デリケートな話だしな」

タケシはどこか大人びていて、僕はそこに少し憧れを抱いた。

「そっかぁ……あまり精通は来ないほうがいい気がしてきたなー」

「まぁでも精通がこないと子供を作れないしね。来たほうがいいよ」

「俺んちなんて精通が来た日に赤飯が出てきたよ」

そういってタケシは笑っていた。

「あー、今時そういう家もあるんだな」

「まぁ古い家……うっ!!」

タケシは射精した。もう精理は終わりかけだというのにやたら射精する男だ。

「はぁはぁ……まぁうちは古い家だからな。ちょっとトイレいってパンツかえてくるわ」

そういってタケシはドラゴンのポーチをもって教室を出ていった。

「あいつもドラゴンポーチなんだな」

「みんな物持ちいいんだなー」

残った川島と僕とでタケシの背中を見送った。

 

僕も明日は高柴と同じように体をビクつかせているかもしれない。

そんなことを考えると、また憂鬱な気持ちになってきたがそういうもとに産まれてしまったのだから、今日も明日も果てながらうまく生きていこうと僕は思った。

 

終わり。

ABOUT ME
イトーさん
とあるバンドのキーボード担当。 でも音楽は全くしていない。そんなバンドマン。

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